ゆめカフェができるまで           

今度はおぬしが夢を叶える番じゃ

本作りを「ナリワイ」にする

 

自分たちの生活の充実をはかりながら、それを拡張してナリワイをつくっていく。伊藤洋志さんは、床張り、結婚式、モンゴルツアーなど、自分の生活の中にもともとあるタネを、ひとつひとつナリワイに育てていった。

私の生活の中にもともとあるもの。
本づくりを、ナリワイのひとつと考える

本づくりは、まず自分自身のため。自分自身の生活の充実をはかるもの。唯一の特技である文章を、本というカタチにしたい。ただ、自費出版というものは、現代ではたいそうお金がかかるもの、と一般的にはそんなイメージがある。実際、出版社に頼めば100万円を超えることも珍しくない。
自費出版をお金をかけず、自分の手でつくる。その喜びを人にもおすそわけする=ナリワイになる。

パソコンでプリントアウトして、コピーして、ホッチキスでとめる。ここまでは、現代なら誰でもできる。お金もそうかからない。これを「見栄えよく」「人に見てもらう=流通」までひろげる。ここまで含めて「出版」と考える。

1年目は、フォトブックで本づくりをしてみた。これなら、プロのデザイナーさんに頼まなくても、見栄えのいい本ができる。古布作家さんの本作りをお手伝いしたが、一冊ごとの制作費がかさみ、かなり赤字となった。

 やはり、ちゃんとしたカタチにするには、予算が必要と考え、2年目は、市の助成金を申請して、絵本をつくった。イメージどおり、立派なカタチにすることができた。ハードカバー版だけではなく、紙芝居、大型絵本になった。資金面プラス、役所の広報力も大きな力となった。

 さらに広く伝えるためにはイベントをすると効果的、ということで、3年目は、原画展やミュージカルをすることにした。ただ、いつまでも助成金に頼るわけにはいかないし、助成金を申請するには、ものすごく手間がかかる。作品に関する権利はすべて市のものです、という書類も送られてきた。

 NPO法人に長く勤めていた知人いわく。「助成金を申請すると、労力がかかるうえに、活動が制限される部分も多い。助成金のぶん、普通に働いて稼いだほうがいい」。クラウドファンディングにも挑戦したが、助成金とおなじく、「普通に働いて稼いだほうがいい」と感じたのだそう。
 彼女はその後、言っていたとおり、本当にOLとして働き始め、休日にできる範囲で市民活動を続けている。自分のペースで自由に活動できて、以前と比べるとずっと楽しそう。
 助成金クラウドファンディングを上手に利用している人は多い。でも、万人に合うわけではなく、広く一般におすすめできる方法ではない。

……なんて、3年もかかって、やっとこさたどり着いた方法なのに、またイチから出直しか。恐ろしいほどカメの歩みである。ただ、「自分には助成金という方法は合わない」ことが分かったという成果は出した。うん、ちゃんと前進している。
 
 はい次!助成金がなくても自費出版できる方法を考える

 そこで、次の目標は、助成金がなくても、誰でも自費出版できるシステムをつくること。
 そう考えているときに、ふと手にとったのが、我が家にある一冊の古い本。夫のひいおじいさん、又吉が書いた戦争の手記である。又吉は、子ども全員を戦争で失った。その想いを綴った小さな本。静かな文体ながら、大切な大切な子どもを失った悲しみがせつせつと伝わってきて、号泣しながら読んだ。

 原本は、わら半紙を糸でとめた簡単なもので、その後、親類が手作りで装丁した。ワープロで文章をうち、厚紙と和紙で表紙をつくっている。この本は、夫の一族の家庭にそれぞれ配られ、代々大切に受け継がれている。

 戦争について書かれた本は数あれど、自分の祖先が記した手記ほど心に響くものはない。戦争を体験したことがない私にも、その想いは深く刻み込まれた。私自身の祖父母は、戦争を経験しているけれど、当時のことを多く語らないまま亡くなった。又吉さんが本というカタチに残してくれたからこそ、こうして代々想いが受け継がれる。

 これだ……! 本の製本は、現代では印刷業者に頼むしかないというのが一般的な考えになっているけれど、手作りでも可能なのだ。一昔前までは、本をつくるなら手作りするのが当たり前だったのだ。
 伊藤洋志さんは言う。結婚式だってお葬式だって、一昔前までは、自分の家で行っていた。家を建てることすら、自給自足の時代があったのだ。自分の手でやっていたことが、いまは業者に頼まなくてはできないものになっている。
 
 じゃあ、なぜ手作りでは無理と思っているのか?大量に製本できないから。大手出版社なら、大量につくる必要があるけれど、又吉さんの本のように、親戚や知り合いに配るのであれば、そんなに大量につくる必要はない。届けたい人に届けられればいいのだから、その分だけつくるのであれば、手作りでも十分可能なはず。

 まとまった冊数を販売する場合も、大量につくって余ったら捨てる、という方法は避けたい。見本だけお店に置いてもらって、受注してから作る。最初は家内制手工業でつくって、それで足りなくなれば、人に頼めばいい。

 インドのタラブックスという出版社は、いまだにハンドメイドの本を出版している。そのことも大きなヒントになった。そんなワケで、いま手作りの絵本に挑戦している。
 
 大量に印刷する方法には、まったく心が動かなかったけれど、ハンドメイド絵本には、ワクワクする。機械による製本が一般的だから、そんなの無理だよって多くの人が思うだろうけれど、ワクワクするってことは、「その方向でOK!」ということなんだと思う。