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今度はおぬしが夢を叶える番じゃ

ゆっくりすることで、これまでのライフスタイルを見直し、ピンチをチャンスに変えることも多い 岡田尊司(精神科医)

『うつと気分障害岡田尊司著(幻冬舎新書

  体調を崩して、やむなく仕事を辞める――。長年かけて積み重ねてきたキャリアを失うのは、大きな挫折ととらえがちですが、精神科医岡田尊司さんいわく、「ピンチは、チャンスに変えることができる」。

 『うつと気分障害』の中で、2人の偉人の例を紹介しています。ひとりは、五千円札の顔として知られる教育者の新渡戸稲造。35歳のときにうつになり、札幌農学校の教授を辞めました。もうひとり、数多くの名著を残した社会学者のマックス・ウェーバーは、33歳のときにうつを発症し、大学教授を辞めました。

 二人に共通しているのは、次の2点。「十分な療養期間をもつことができたこと」「元の仕事にしがみつかず、病気になる前と後とでは、ライフスタイルを大きく変えたこと」。その後、完全に回復し、病気になる前よりいっそうスケールが大きく、オリジナリティあふれる活躍をしました。 

 『妹たちへ 夢をかなえるために、今できること』(日経ウーマン編著/日本経済新聞社)に、もうひとり「ピンチをチャンスに変えた」女性が紹介されています。

 医師の海原純子さん。女性の心と体をトータルに診療する「女性クリニック」を開設した先駆者であり、随筆家、歌手としても活躍しています。

 海原さんは、激務が続いていた40歳のころ、心身ともに不調に陥り、2年半の間、まったく仕事ができない時期があったそうです。やっと軌道にのった女性クリニックも、やむなく閉じることになりました。海原さんは、休業保険で生活しながら、ゆっくり自分を見つめなおしました。

 「私は何が本当にやりたいのか、どう生きていきたいのか」。

 考えた末に、今までのライフスタイルを180度方向転換することを決断。クリニックの規模とスタッフの人数をコンパクトに絞り、カウンセリングだけの診療に切り替えました。

 原稿の仕事も、以前のように数多くこなすのではなく、自分が書きたいテーマを厳選して、じっくり取り組む。仕事を最小限に絞った分、時間と気持ちに余裕ができたので、学生時代に夢中になっていたジャズ歌手の活動も再開しました。

 立ち止まっている時間は、けっして無駄ではない。新渡戸稲造も、マックス・ウェーバーも、海原さんも、体調を崩してリセットせざるをえなかったからこそ、自分の気持ちと真剣に向き合い、本当に自分らしいと思える道に出会ったのです。

 作家の唯川恵さんは、自身の人生を振り返って、こう述べています。

「うまく行っている時、人は今の幸運を逃したくなくて、そこから動けなくなってしまう。チャンスは運の悪い時にこそある」

『妹たちへ 夢をかなえるために、今できること』より