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今度はおぬしが夢を叶える番じゃ

本当に欲しいもの、それは社会の中で実態のない成功を目指し、結果を出そうと走り続けることではない。心の内側から湧きおこる幸福感に満たされて生きる、ということなのだ。光野桃(作家、エッセイスト)

『実りの庭』光野桃著(文藝春秋

 20代のころ、『おしゃれの視線』という本が大好きで、何度も読み返していました。最近、著者の光野桃さんが書いたエッセイを数冊読んで、本当に驚きました。なんと、光野さんがターニングポイントを迎えた年齢が、私とぴったり重なったのです。

 何冊かの著書の内容から、光野さんの年表を作ってみました。

 30歳 結婚、出産

 33歳 仕事を辞めてイタリアに行き、4年間暮らす

 37歳 帰国して仕事に復帰

 38歳 『おしゃれの視線』でデビューし、猛烈に仕事が忙しくなる

 43歳 目標の10冊を書き終えたあと体調が急激に悪化

 45歳 2年間のスランプのあと『スランプサーフィン』を出版。

 一方、私は30歳で出産し、33歳で仕事をセーブして4年間育児中心の生活。37歳で仕事に復帰してがむしゃらに働き、43歳で体調を崩す。2年近いスランプを経て、ブログをスタート――。

 人気作家の光野さんと比べるのは、はなはだ恐縮ですが、ターニングポイントとなった年齢はまったく同じ。スランプに入った時期が、目標としていた仕事を終えた後ということをはじめ、その時その時の細かい状況まで似ているのです。「思い立ったらなんでも速攻でやらなくては気が済まない。そこに向かって一目散に走ろうとする」(光野さん)という性格も……。何から何までそっくりで驚きましたが、私に限らず周囲の友人を見ても、女性は同じような年齢で、転機を迎えるものなのかもしれません。「四十代は人生の陰りがひっそり忍び寄る年ごろ」と光野さんは言います。

 『スランプ・サーフィン』は、題名の通り、光野さんがスランプの真っただ中にいた45歳のときに出版した著書。2年間続いた真っ暗なトンネルを潜り抜け、光が見えたところで終わっています。

 現在60代という光野さん。その後の人生が知りたくて、『スランプ・サーフィン』の10年後に執筆された『実りの庭』を手に取りました。心身の不調が回復し、パワー全開で仕事を続けていると思いきや、読み進むにつれ、愕然となりました。

 なんと光野さんにとって、45歳からが本当のスランプ。『スランプ・サーフィン』はほんの入り口で、そこから長い長い闘いが始まったのです。

 本文の内容から、さらに年表を進めます。

 45歳で「鬱的状態」に陥る

 46歳休業してバーレーンに移住。3年間鬱状態のまま過ごす

 49歳 帰国し母の介護をする

 50歳 母を見送ったあと、介護疲れから半年間寝たきりの生活

 51歳 5年間の休業を経て仕事を再開

 55歳 『実りの庭』『あなたは欠けた月ではない』を出版。

 光野さんは、こう振り返っています。「ちょうど十年、この十年がまるまる更年期だったとすれば、確かにそうなのかもしれない。もがいてももがいても水面に出られなかった」。

 元の場所に戻ろうと、もがけばもがくほど、ますます深みにはまる。ならば、力を抜いて浮いてみよう。ペースを落として、ゆっくり本を読んだり、周りの景色を楽しんだり。流れに逆らわず、身をまかせてみよう。それが、自分らしいライフスタイルに出会うきっかけになるかもしれません。 

 光野さんは、10年間スランプの旅を続ける中で、大切なことに気がついたのだそう。

「本当に欲しいもの、それは社会の中で実態のない成功を目指し、結果を出そうと走り続けることではない。心の内側から湧きおこる幸福感に満たされて生きる、ということなのだ」(『実りの庭』より)。