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今度はおぬしが夢を叶える番じゃ

あまり哲学的な歌詞にすると大衆には伝わりにくい。だから、あえて男女の恋愛に置き換えて表現しています 藤井フミヤ(歌手)

日本経済新聞(夕刊)』2018年7月30日(月曜日)

  新聞を片付けながら、ふと歌手の藤井フミヤさんのコラムに目がとまりました。ずいぶん長く活躍されているんだなあ。何歳くらいなんだろう。へえ、もう56歳なんだ。実年齢と比べると見た目が若いなあ、などと感心しながら読んでいると、さらに、へえ、と驚くことが書いてありました。

 作詞を自ら手がけているという藤井さん。56歳にして、9割が男女の恋愛について書いた詞なのだそう。しかも30歳前後の。

 私など、30歳どころか、1年前のことすら覚えていない。どんなことを考え、どんなことに悩んで、どんなことに喜びを感じていたのか。今この瞬間のことしか分からない。分からないというか、興味が持てないと言ったほうが正しいかもしれません。

 それなのに、藤井さんは、私より10歳以上年上なのに、30歳の恋愛について詞を書いている。そのことに驚き、なぜ恋愛をテーマに書き続けているの?と疑問を感じたのです。コラムを最後まで読んで、なるほどと納得しました。

 「本当に言いたいのはヒューマニズムだとしても、あまりに哲学的な歌詞にすると大衆には伝わりにくい。だから、あえて男女の恋愛に置き換えて表現しています」。30歳前後という設定に関しては、「ラブソングとは根本的にそういうものでしょう」。

 なるほど。表現したいのは、56歳の今現在、自分が考えていること。哲学的なこと、人生のこと、それをストレートに詞にすると、小難しくて、説教くさい内容になるかもしれません。難しいことを歌っても、心に届きにくい。怒りや不満といった感情をそのままぶつけても、聞きたいという気持ちにならない。

 そこで、多くの人が共感できるように「伝わりやすい設定」に置き換える。だからこそ、こんなに長く、ヒットメーカーとして活躍していらっしゃるんだな。プロの表現者として、大切なことを教えてもらった気がしました。

 同時に、そうか!とひらめいたのです。これまで、難しいテーマだからと、書くのをあきらめていたことも、設定さえ変えればカタチにできるのではないかと。7年間、心の奥底にしまいこんでいた、あるテーマが浮かんでいました。

 最近、みょうにこのテーマが気になると思っていたところに、この新聞コラム。とても偶然とは思えません。毎日、「感謝」「感謝」と思っていたら、こんなにすぐに良いことがやってくるんだな。ちょっとびっくりです。あらためて、感謝。