ゆめカフェができるまで           

今度はおぬしが夢を叶える番じゃ

出るのなら、出過ぎて打たれない杭になる!        石村由起子(「くるみの木」オーナー)

『私は夢中で夢をみた』石村由起子著(文藝春秋

 

 東京でさえ、まだカフェや雑貨店が珍しかった1994年。主婦だった石村由起子さんは、奈良のはずれに、雑貨とカフェの店「くるみの木」をオープンしました。

 「お茶が飲めて、暮らしの雑貨が買える場所をつくりたい」と思ったものの、今までにない新しいスタイルは、そう簡単には受け入れられませんでした。閑古鳥が鳴く日々を乗り越えてようやく軌道に乗り、新聞や雑誌の取材を受けるようになったころのこと。新たな問題が起こりました。

「びっくりするような中傷や噂話」が聞こえてくるようになったのです。根も葉もない噂話にとまどう石村さんに、ご主人が、こんな言葉をかけます。

 「世に出るということは、いろんなことを言われたり、起こったりして当たりまえなんや。出る杭は打たれる。けど、出過ぎた杭は打たれへんねん。だから、打てないくらいのええ店をつくれ」。

 出る杭は打たれても仕方がない。打たれるということは、杭の出方が中途半端ということ。誰も打てなくなるほど、上に出て行かなくては――。出る杭は打たれる体験は、石村さんにとって、むしろ奮起するきっかけになったのです。このときから、周囲のことがあまり気にならなくなったのだそう。

 それにしても、信頼のおけるパートナーがいるということは、心強いものです。「たとえ100人に何を言われても、たったひとりのわかってくれる人がいれば、それでいい。私はやっていける」。この時会社員だったご主人は、後に石村さんのビジネスパートナーとして、「くるみの木」を支えていくことになります。

 

 手ごろな価格とおしゃれなデザインが人気の眼鏡店「JINS」の社長、田中仁さんも、新聞のコラムで「出る杭は打たれる」経験を語っています。福岡で1号店をスタートさせてから、急成長し始めたころ、これまで業界の中心的存在だった老舗店から、さまざまな妨害やいやがらせを受けたそうです。

 あるときは、大学の研究室と共同で開発を進めていた機能性眼鏡のプロジェクトを横取りされたことも。社運をかけた一大プロジェクトだっただけに、痛手は相当大きかったことでしょう。押しも押されぬ人気店に成長した今では、杭が打たれることは、「もう一切なくなった」と語っています。

 

石村由起子さんと田中仁さんに共通することは、打たれても立ち止まらなかったこと。それは、自分が本当にやりたいこと、進みたい方向が明確に定まっているから。石につまずいても、転んでも、すぐに立ち上がって、まっすぐ突き進んでいけるのでしょう。自分が目指す「北極星」をしっかり定めたいものです。

 

以前、取材をさせていただいた石井希尚さんが、執筆した新刊本を送ってくれました。その中にあった聖書の一節--

 

能あるリーダーは議論しない

人を導くべき立場の者は、ちょっとやそっとのことでケンカをするようなことではいけない。むしろ、すべての人に優しくし、それが誰であっても、怒らずに、教えるべきことを正しく教えられる人でなければならない。中にはあなたのことが気に入らず、あなたのなすことにいちいち反対したり、妨害したりする人もいるだろう。しかしそういう人たちをも、忍耐強く、柔和な心で指導する者であるべきだ。

テモテへの第2の手紙2章23~25節『超訳聖書 生きる知恵 エッセンシャル版』石井希尚著(ディスカヴァー・トゥエンティワン