ゆめカフェができるまで           

今度はおぬしが夢を叶える番じゃ

料理をするときに、何を作ろう、どうしようとグルグル悩むものですが、実は家族みんなが喜ぶメニューを10個知っていれば、それで十分なんです。  行正り香(料理研究家)

行正り香の定番料理』行正り香著(宝島社)

 

「料理上手=レシピをたくさん知っている人」というイメージがあったから、「メニューは10個で十分」というコメントにびっくり。と同時に、長年、料理コンプレックスがあった私は、なんだかホッとしたのを覚えています。

 冒頭の言葉から、ふと、以前ベストセラーになった本『フランス人は10着しか服を持たない』ジェニファー・L・スコット著、神崎朗子訳(大和書房)を思い出しました。なるほど、服も、料理のレシピも、10個でいいんだ。シンプル好きの私としては、すごく魅力的な提案です。

 うろ覚えですが、『フランス人は……』の内容を振り返ってみました。クローゼットはパンパンなのに、「今日着ていく服がない」と悩む。無理やり選んだけど、どうも納得いかない。着ていく服がないのは、必要なアイテムが足りないからだと考え、さらに買い足す――。こんなエピソードが紹介されていたような……と考えたところで、「服と料理の悩みって、ものすごく似ている!」と気がついたのです。

 インターネットや書籍、雑誌には、和・洋・中・エスニックと世界各国のレシピが数えきれないほどあふれています。調べようと思えば、スマホで簡単に検索できるし、最近は、無料で見られる動画レシピまであって、至れり尽くせり。

 ところが、周囲で「今日の晩ごはんは何にしよう……」という声を聞くことが多いのです。まさに、クローゼットはパンパンなのに、「今日着ていく服がない」と同じ状態。さらに、今日のメニューに悩むのは、自分のレパートリーが足りないせいだと思い、未知のレシピを開拓するというから、うーん、どこまでも似ている。

 

 ちなみに、私の料理のレパートリーは10品程度。子供が成長とともに、何品か入れ替わりましたが、基本的なメニューは10年来、ほぼ同じです。以前は、たくさんレシピを覚えようと頑張ったこともあったけど、家事の中で料理が一番苦手なこともあって、結局いつも作るのは定番メニューばかり。今のレパートリーに落ち着いたというわけです。

 10個ですから迷いようがなく、晩ごはんのメニューもさくっと決まります。「晩ごはん何にしよう」と聞くたび、迷うほどレパートリーが欲しいものだと、常々うらやましく思ったものです。

 でも、行正さんの言葉を読んで、少ないレパートリーも悪くない。そう思えてきたのです。「家族みんなが喜ぶメニュー」を繰り返し作ることは、フランス人が本当に気に入った服を何度も繰り返し着るのと同様。少ないからこそのメリットがあります。

 晩ごはんのメニューに迷わないだけではなく、もう数えきれないほど繰り返し作って、家族好みに改良していますから、間違いなく「おいしい!」と言ってもらえます。

 季節の行事も、お客さんを招いておもてなし料理をふるまうときも、特別なワザは持っていないので、10レシピの中から選び、シチューのお肉をランクアップするだけ。作り慣れているので、失敗がありません。料理上手と言ってもらえることもあって、なんだか不思議な気分です。「我が家のベスト10」を家族投票で選んで、とことん我が家の味を追求する、というのもおすすめです。